∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇∇
有名無実に堕した裁判官国民審査と任官拒否判決と守旧派の反民主主義的戦略
                       ジャーナリスト 川崎 明

 こんどの総選挙でも最高裁判事の国民審査が行われる。「もうひとつの総選
挙」といわれるほど主権者にとっては重要な権利にもかかわらず影の薄い存在
だ。
 任命後最初の総選挙とその後10年を経た後の総選挙のときに行われる。今
回の対象者は9名の予定である。
 罷免を求める票が罷免反対(信任)の票より多い裁判官は、結果の告示から
30日以内に審査無効の訴えが無いと罷免される。
 しかし、過去15回の審査では、罷免を可とする有権者の割合は平均して
8.9%で、実質的に無意味審査になっている。
 その要因としては、(1)裁判官の実績を有権者が知らないこと、(2)白紙
は罷免不可と解釈されること、(3)○印は無効と解釈されることなど、運用
上の問題があるからだが、国家権力の構造から考えれば民主化の徹底はできる
だけ避けたいという本音が根底にある。
 そんな本音が丸見えになったのが、司法修習生の任官拒否に係わる賠償請求
事件の判決である。

        ◆司法研修所教官が修習生を「肩たたき」◆

 去る5月26日大阪地裁は、裁判官志望だった司法修習生を、最高裁が採用
しなかったことの当否が争われた訴訟で、元修習生側の主張を全面的に退ける
判決を言い渡した。
 この裁判では、最高裁がこの修習生を判事補に任命しなかったことが社会通
念に照らして妥当性を欠いていたかどうかに加えて、司法研修所の教官がこの
修習生に対して裁判官志望の撤回を求めた行為(逆肩たたき)の違法性などが
争点になった。
 判決は、任官拒否の違法性をめぐって、まず「内閣によって任命されるべき
裁判官候補者の指名は最高裁の裁量にゆだねられているが、裁量権の逸脱ない
し乱用は違法となる」と判断を示したが、「本件最高裁の判断は、その判断基
準について、妥当性に異論はあるにせよ、十分合理的で、違憲・違法ではな
い」と述べ、「本人については、こうした判断基準に照らしたもので思想信条
などそのものを理由にしていないことは明らか。裁量権を逸脱したり、乱用し
たとは認められない」と結論づけた。
 司法研修所教官が任官志望の撤回を勧めた逆肩たたきについても「思想信条
による差別を目的とするものではない」として違法性を否定した。

       ◆「箕面忠魂碑訴訟の参加」が任官拒否理由◆

 だが、判決理由にもあるように本人は1993年、司法研修所の教官から、
「君が裁判官になったら危ない」とか「最高裁に推薦状は書けない」などと裁
判官志望の撤回を求められた事実があり、それでも最高裁に採用願を提出、
94年4月、105人の裁判官志望者のうちただ1人、任官を拒否された事実
もある。
 しかも、最高裁は任官拒否の理由を「人事の機密に属することで公表できな
い」としており、本人にも説明していない。この裁判でも、国側は不採用の理
由は明らかにしないという姿勢を貫いた。
 だがこの裁判では、本人が「箕面忠魂碑訴訟」の原告補助参加人であったこ
とが真の争点であったことは、94年4月の判事補任官拒否の際、各地の弁護
士会が抗議声明を出したことでもあきらかである。
 1970年代には、「青年法律家協会」(青法協)の会員に対する任官拒否
が相次いだが、今回の任官拒否は7年ぶりのケース。この後現在まで、6人の
修習生が任官を拒否されているが、今回の裁判を通じてもなお、最高裁の判断
基準は明らかにならなかった。
 このような「秘密主義」は裁判所だけでなく司法制度全般に行き渡ってい
る。
 今行われている司法制度改革の論議では、判事補任用制度をやめ、原則とし
て経験豊富な弁護士から裁判官を選ぶ「法曹一元」制度をとるかどうかが重要
テーマになっている。
 これまでのところ、最高裁は「法曹一元」に反対の態度をとっている。
 その背後には、「防衛・警察・裁判」という「国の箍(たが)を締める
3権」だけは緩められないとする、この国の「守旧派」の政略があることを、
しっかり見据える必要がある。

 

週刊メールジャーナル(権力と政財界の裏側)より