『9・11』から5年 米で陰謀説再燃

 きな臭い時代の幕開けとなった「9・11」事件から間もなく五年。米国では同事件の陰謀説が再燃している。ブッシュ政権が意図的に攻撃を見逃し、戦争政策に利用したという見方だ。従来、陰謀論を無視してきた政府も、今回は打ち消しに動いた。論戦は続くが、この再燃現象は同国の右傾化に対する揺り戻しにも映る。ただ、多くの市民はいまも真相よりも悲しみに縛られている。 
私の注釈:
田原牧記者執筆( 戸籍名は田原拓治で、ペンネームが田原牧さん:と言う事は.... (^_^;))

 陰謀説再燃を印象づけたのは、六月初旬に米シカゴで五百人が参加した「9・11の真実を求める科学者たち(S911T)」主催の真相究明会議だった。このグループは退役空軍将校や元海兵隊情報部員などの大学人、ジャーナリストら七十五人で構成されている。

 米政府の独立調査委員会は二〇〇四年七月、事件の最終報告を発表した。しかし、S911Tはこの内容に異議を申し立てた。世論も敏感に反応し、オハイオ大・スクリプスセンターの最新世論調査でも、三分の一が「事件は政府が共謀したか、テロ計画を意図的に見逃した」とみている。

 政府は先月三十日、国立標準・技術研究所(NIST)の名で反論を発表。陰謀説に冷たかった大手紙もニューヨーク・タイムズが二日、政府の「反論」を機に陰謀説を取り上げた。
 
■『WTC倒壊爆薬が原因』 

 では、S911Tが指摘する陰謀説の根拠とは何か。乗っ取られた旅客機二機がニューヨークの世界貿易センタービル(WTC)に突入したシーンは事件の象徴となっているが、彼らはWTC二棟の倒壊の原因に疑問を投げかける。

 政府報告書では衝突の衝撃とジェット燃料の熱で高層ビルの鉄骨が崩れた、としている。だが、S911Tはジェット燃料の火の温度は鉄の融点に達せず、衝撃にも十分耐えうる設計がなされていたという設計者の証言から、倒壊は航空機の衝突のせいではなく、爆薬が事前に仕掛けられていたと仮説を立てている。

■『建物の解体すぐに遂行』

 同グループはある退役軍人の「現場の状況は軍用テルミット(アルミ粉末と酸化鉄の混合物)爆弾で、ビルを倒壊する場面に酷似している。これは瞬時に高熱を発生し、鉄骨を溶解させる」という言葉を引用。

 さらに当日、衝突とは無縁だった四十七階建てのWTC第七棟が崩壊した事実に注目する。第七棟では突入事件直後に火災が発生したが、ビルの借地人が消防当局に消火を断念し、倒壊を命じたと証言している。

 だがS911Tは、火災が小規模なのに消火せず、爆薬による解体がわずか数時間の間に遂行されたのは「事前準備抜きにはあり得ない」と結論。ここから逆に航空機が衝突した二棟にも、事前に爆薬が仕掛けられたと推測している。

 WTC以外に国防総省にも当日、乗っ取られた航空機が突入したとされる。これについても、S911Tは疑問を呈している。

 理由として(1)建物にできた衝突の穴が機体に比べて小さすぎる(2)突入直後の写真に建物内部の家具や電子機器が散らばっているにもかかわらず、六十トンもの機体の残骸(ざんがい)や乗客の荷物などが見えない(3)飛行技術に未熟な犯人が、改築中で唯一無人だった高さ二十二メートルの西棟に急旋回し、かつ超低空飛行を維持して突入するのは不可能−といった点を列挙。ミサイルによる破壊の可能性を示唆する。

 ほかにも、同グループは事件に絡む「不自然」な点を並べる。例えば、国防総省が前年十月、旅客機が同省に突っ込む想定で対テロ訓練をしていたにもかかわらず、ライス大統領補佐官(現国務長官)が事件直後に「誰一人として(こんな事件を)夢にも思わなかった」と発言したこと。

 一機目がWTCに衝突してから約五十分後に、空軍などが守る首都中枢の国防総省に乗っ取り機が突入できた不思議。ちなみに当日は複数の防空演習があり、レーダー上も仮定と現実の区別がつかなかった、という説明がされている。

 さらに事件の調査費が六十万ドルで、クリントン前大統領のスキャンダル調査費の七十分の一にすぎず、政府が真相究明に消極的だった点も指摘されている。

 一方、政府もこうした追及に対抗している。WTC爆破説については「もし爆薬で解体するなら下の階から爆発させるのに、今回の仮説では逆になっている。さらに数千もの爆薬や起爆装置を混雑するオフィスビルで秘密裏に設置するのは事実上、不可能」と反論している。

 何より、〇四年にウサマ・ビンラディン容疑者自らが声明で犯行を認めていることを、陰謀説を打ち消す最大の根拠にしている。

 ただ、S911T側は政府中枢がアルカイダの犯行計画を知っていて、それを意図的に看過、利用したとしており「その後のアフガニスタン、イラク侵攻を遂行するために“第二の真珠湾攻撃”が必要だった」と“陰謀”の政治的動機を説いている。

 こうした陰謀説は事件直後から米国内外で流れていた。ただ、昨今の再燃は、イラクの泥沼状況に伴う反戦感情の高まりが背景にあることは間違いない。

 米国での陰謀説は今回に限った話ではない。一九六三年のジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件をめぐっても軍産複合体犯行説など陰謀論が根強く、真相はいまも閉ざされている。

 9・11の中心地、ニューヨーク(NY)の市民はいま事件をいかに受けとめ、陰謀説の高まりをどう感じているのだろうか。現地在住のジャーナリスト北丸雄二氏に報告してもらった。

 NY市民はなにげなく振る舞うのがうまい。五回目の9・11も大げさなのは嫌いだ。けれど心はいまも傷ついている。

 ことし「ユナイテッド93」とオリバー・ストーン監督の「ワールド・トレード・センター」という二本の9・11映画が封切られた。

 写真家トロイ・フィリップス(41)は「ぼくの友人でこの映画を見たやつはいない」と言う。

「まだ準備ができていないんだ。もっとも、NY以外の人はどうか見てほしい。ただ、ぼくらは普通に地下鉄に乗り、普通に買い物をし飛行機に乗り、トンネルや橋を怖がることなく渡れるような生活に専念したいんだ」

 そんな状況で「陰謀説」を顧みる余裕は市民にはあまりない。これも「NY以外の人」に任せたい。陰謀好きのストーン監督の新作ですら事件の前にひれ伏したような直球だ。NYの映画館では物語が始まる前から早くも緊張ですすり泣く声が聞こえたりする。

■『複雑な余波陰謀説不要』

 一時帰米中の明治学院大学ロバート・スワード教授(64)は五年前、崩落する世界貿易センターを自宅アパートの屋上から見ていた。「その後の五年は、相も変わらぬ人命の損失と破壊と、ブッシュ政権とその同盟国による国際的な愚行と希望喪失の連続だった。9・11の余波がこんなにも複雑なのに、これ以上、誰に陰謀説が必要だろうか」

 会計事務所社長でユダヤ人のジェリー・クリング(58)は悲観的だ。「9・11は人びとの宗教観を永遠に変えてしまった。宗教は戦争を想起させるものになった。不信心者ゆえに殺される時代。私たちが私たちを憎む数千もの狂信的自爆テロから自らを守ることはもはや不可能だ。私たちは次の悲劇の日までを生き延びているにすぎない」

 NY市民にとってあのトラウマ(心的外傷)の完治はないかもしれない。なにげなく振る舞っているとしても、それは彼ら一流の演技なのだ。

 <デスクメモ> 陰謀説は、どの時代にもある。古くは旧ソ連のガガーリン少佐の偽者説を聞いたし、日航機御巣鷹山墜落事故の「真相」を語る人の話も聞いた。「9・11異説」がこれらと違うのは、あまりに多くの米国人に支持されていることだ。真実はともあれ、国民に育ったさい疑心を米政府は重く受け止めなければ。 (充)
 

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