NPOのコンピュータ支援 ― コンピュメンター
市民運動の活発なコンピュータ利用の影には、地道な技術支援・訓練の活動がある。日本ではパソコン・メーカーなどが街でパソコン講座を開く事例が多いが、非営利団体の活動が活発なアメリカでは、市民団体もパソコン訓練、技術支援の活動を、市民、非営利団体向けに開いている。その中でも特にユニークな活動をしているのが、このコンピュメンター(本部サンフランシスコ)だ。
「アメリカには非営利団体(NPO)向けのコンピュータ・ラボがたくさんあります。比較的大きなラボが約二〇、小さいのは約五〇......」 コンピュータ技術援助団体「コンピュメンター」のダニエル・ベンホリン事務局長が説明する。「だから、たいていの大都市にはこうした施設があって、NPOの人たちが気軽に訪れてコンピュータを習ってこれます。こうしたコンピュータ・ラボは、技術資源共同会議(TRC)という協会をつくって連係しています。」
ベンホリンさんは、TRCの有力加盟団体の一つ「コンピュータ・アクセス」を創設した人だ。サンフランシスコのゴールデン・ゲート・ブリッジを望む美しい公園にNPOがたくさん入る建物があり、コンピュータ・アクセスはその中に一〇台以上のマックを構え、コンピュータ講座を開いている。アメリカでは、こうした市民団体が一般市民又はNPO向けに講座を開く例が数多い。
しかし、以上は、ベンホリンさん言うところの「ラボラトリー・モデル」である。コンピュータは、クラスで習っても実際に使いはじめるといろいろつまづくことが多い。だから実際にコンピュータを使う場に技術者を送って援助する体制が必要だとベンホリンさんは強調する。彼はこのために、自らつくった「コンピュータ・アクセス」をやめて、一九八六年に「コンピュメンター」を設立した。これは、ボランティアのコンピュータ専門家(メンター)をデータベースに登録し、援助を必要とするNPOと「マッチメーキング」(引き合わせ)するプロジェクトである。
サンフランシスコ都市圏を中心に、四〇〇〇人以上のメンターが登録されている。一九九四年だけで八五五人が新しくメンターに応募してきた。非営利団体からメンターの要請があると、データベースの中から得意分野、地域などを勘案してボランティアを選び出して派遣する。九四年には、九〇四の非営利団体からの要請があり、その内三二七のマッチメーキングが成立した。 メンターは単なる技術マニアではだめで、団体の事情をよく知り、それにあったシステムづくりを支援できる人でなければならないという。そして、単なる一時的なお助けマンに終わらせず、長期的な関係づくりを目指す。「私たちはスーパーマンやローンレンジャーではありません。問題が出た時だけ突然現れて、さあ直った、さよなら、と消えていくんではなくて、恒常的な関係をつくることが目的です。テレコミュニケーション関係の技術援助の場合、三―六カ月に渡って恒常的な関係をもちます。各NPOの活動の中でそのニーズにあったコンピュータ利用をめざすのです。」 例えば最近では、ヘイワード(サンフランシスコ対岸)のエデン情報紹介(エデンI&R)のホームレス支援データベースの開発に一〇人のメンターが参加した。それまでこの非営利社会福祉団体では、古いパソコンと電動タイプライターが一台ずつあるだけだったが、この支援を経て本格的なデータベースが立ち上がり、一四台のマッキントッシュがLAN(構内ネット)結合された。緊急に住宅を必要とするホームレスの人が駆け込んできても、すぐ空きアパートが検索でき、どこの福祉機関で保証金をローンしてくれるかなどがわかる。
ヘイワード市のあるアラメダ郡には二七〇の社会福祉団体の連合体「アラメダ郡緊急サービス・ネットワーク」(ESN)があるが、これを結ぶ情報ネットワークづくりもコンピュメンターのボランティアが手伝っている。空きアパートやサービス施設リストなど、ホームレスの人たちのための情報を広域でシェアする予定だ。 その他、高齢者支援組織、保育サービス、精神障害者自立プログラム、エイズ患者支援団体など、社会福祉関係のNPOを対象にした支援が多い。最近では、公立学校での先生や子どものパソコン・トレーニング支援も増えている。今学校にどんどんパソコンが増えているが(本章五参照)、これを使える先生が少ない。一九九四年にサンフランシスコ学校区に三三人、隣のバーリンゲイム学校区に七人のメンターを派遣した。
コンピュメンターができて数年してから、カリフォルニアでは非常に珍しい財団「テレコミュニケーション教育トラスト」(TET)ができ、通信・コンピュータ関係の市民活動に援助を開始した。一九八六年、カリフォルニアの電話会社(パシフィック・ベル社)の不適切な新サービス勧誘商法に関連して州公益事業委員会(PUC)が一六五〇万ドルの懲罰金を命じ、この罰金でつくられた市民団体助成基金である(第八章三参照)。このような不正が起こらないよう、テレコミュニケーション分野での消費者教育を強めるため、五年間にわたり、この分野で消費者教育活動を行なた。
コンピュメンターもこの基金からの助成を受けることで大きく成長した。
活動の中心を、ネットワークづくりの分野に移すことになり、新たに「ネットワーク開発プログラム」を設置した。ハンズネット、ザ・ウェル、ピースネット、エコエットなど市民ネットワークへのアクセス援助を初め、LAN構築などの支援に重点をおく。最近の「情報スーパーハイウェイ」フィーバーの中でこの面での活動は非常に活発になり、財団なども、社会的弱者をネットにつなぐための助成を強化していると、ベンホリンさんは言う。
「コンピュメンターができたばかりの頃は、非営利団体に対する基本的な技術支援を行なう価値と必要があるということを助成機関に何度も何度も説明しに行かねばなりませんでした。ところが今では、この同じ助成機関が、その助成団体を何とか情報ハイウェイに乗っけてくれと私たちに熱心にアプローチしてくるのです。皮肉にも、基本的な技術支援は今でもなおざりにされているのですが、それでも機会の窓が広がっているのは確かです。非営利セクターが技術的に第一歩を踏み出すチャンスですし、コンピュメンターのメンターとスタッフがそれと手を組んでこの時期をとらえることが大切です。」
しかし、コンピュータのプロがどうしてボランティアで協力してくれるのだろうか。「ボランティアを探すのは簡単なことで、実際、一番問題の少ない部分だった」とさえベンホリンさんは言う。四〇〇〇人の登録ボランティアの背景にあるのは何だろう。
「日本ではどうか知りませんが、アメリカのコンピュータ文化の中には民主主義的なわかち合いの精神が残っています。マイコン革命の初期から、人びとは情報を積極的にシャエアしようとしました。例えばスティーブ・ウォズニアック(アップル社創設者の一人)は別に百万長者になろうとしたのではありません。単なるワイルド・キッドでした。こういう人たちが、ホームブルー・コンピュータ・クラブ(対抗文化世代のコンピュータ会議。ここを中心に初期のパソコン産業が発展した)に出かけ、これをつくった、あれを発見したと情報をシェアしあう。そしてガレージに帰って自家製のコンピュータをつくったのです。それがビッグ・ビジネスになった。今、アップル社は情報をシェアしようとはしないかも知れません。しかし、個人は、一人一人の人間は、以前からの情熱を決して失ってはいません。だから、ボランティアにも積極的に参加します。」
コンピュメンターのことが新聞記事などになると、決まってボランティア志望がたくさん舞い込む。アメリカの辺ぴな所から援助の要請が来ても近くのコンピュータストアなどに募集広告を出せば必ずどこかでマニアが見つかる。様々なコンピュータネットワークに募集を出しても同じことだ。最近はデータベースに登録する意味があまりなくなっている位で、メンターを登録しても適当な援助対象団体が見つからずかえってがっかりさせてしまうと言う。
技術支援と並んで、コンピュメンターではソフトやコンピュータ関係書籍の配布事業も行なっている。これもよく考えられたシステムだ。パソコン雑誌社などにはレビューのために多くのソフト会社が新作ソフトを送ってくるが、これを寄付してもらい、コンピュメンターが手数料(ソフト三〇ドル、書籍七ドル)だけで全米の非営利団体に配布するのである。季刊の在庫リスト(カタログ)をつくって全米約一〇〇〇の非営利団体に送っている。ここから申し込みが来て、早いもの順でわけて行く。メンターが個々の非営利団体に行った際、フトが必要と判断した時点で、在庫から持ってくる形ではけていく場合もある。一九九四年には計六六〇本のソフトが全米の非営利団体に提供された。
レビューのため新作ソフトがたくさん送られてくるジャーナリストからの寄付もある。マイクロソフト、ロータス社などとは特別の契約関係にあり、新作ソフトをまとめて大量に寄付してもらっている。ソフト会社としても、ソフトを地域に寄付して社会貢献したいという希望をもっているが、どこに寄付していいかわからないし、そのための寄付事業体制をつくりあげるのは大変なことだ。そこでコンピュメンターが出てきて、企業と非営利団体の間の仲立ちをする。
NPOに渡るソフトは海賊版などでなくすべて正規のソフトである。ソフトを入手したNPOは正規のユーザー登録をしてサポートを受けられる。
バージョンのアップグレード・サービスもある。雑誌社やジャーナリストからの寄贈品の場合は、使用済みソフトを配布することになるが、これは転売ではなく(実費のみによる)寄付の行為なので法律的に問題にならないという。
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(岡部一明 著 『インターネット市民革命』 御茶の水書房、1996年刊、4章より)
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